適正在庫とは?計算方法や考え方のコツ、在庫状況の改善策など
製造業では、欠品や過剰在庫といった問題が生じないよう、資材や仕掛品、完成した製品それぞれで「適正在庫」を維持することが重要です。「安全在庫との違いはなにか」など、適正在庫の考え方について知りたい場合や、適正在庫の具体的な計算方法について知りたい方もいるでしょう。
今回は、適正在庫の考え方や計算方法をご紹介します。過剰在庫や在庫不足が起きている場合の改善ポイントについてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
適正在庫とは?
はじめに、適正在庫のもつ意味や役割をご紹介します。
製造業における適正在庫の意味と役割
適正在庫を簡単に説明すると、欠品のリスクを抑えつつ、過剰在庫にもならない在庫量です。製造業において、在庫量の過不足はさまざまな部門の業務に影響を与えます。具体例を下記に示しました。
過剰在庫の場合は、保管スペースの圧迫や入出庫にかかるコストが増加します。在庫整理が複雑化することによる、誤発注のリスクもあるでしょう。在庫が多すぎることによって保管期間が延び、市場の変化などに伴う製品価値の低下といったリスクも考えられます。売れるまでに時間がかかるため、社内における資金の流れが悪化し、調達した資材の支払いが滞るなどといった問題も出てくる可能性があるでしょう。反対に、在庫が少なすぎると急な注文などに対応できず、機会損失につながります。
そこで製造業において適正在庫を考えるときに重要なのが、「全体最適」の考え方です。発注コストの圧縮、生産現場の業務効率化、需要変動への対応力といった、各部門のバランスを取りながら適正在庫を定めることでキャッシュフローを改善し、利益最大化を目指します。
適正在庫に影響を与える「安全在庫」とは
適正在庫と混同しやすい言葉に「安全在庫」があります。安全在庫は、欠品を出さないための在庫の最小ラインを示す指標です。急な受注や、製造における設備トラブルといった予測できない事態の発生時に欠品をカバーするための在庫を意味します。
適正在庫はこのような考え方から、「需要に対する適正さ」「社内全体にとっての最適化」という考え方へと展開させて示した在庫量と言えるでしょう。欠品や過剰在庫を出さないことはもちろん、組織全体で考えたときの在庫量の適正範囲を示します。
適正在庫を考えるときに考慮したい3つのリードタイム
適正在庫を考えるときに知っておきたい、リードタイムについてご紹介します。製品のリードタイムは、工程別に以下の3つに分けることができます。
※リードタイムとは
その工程に「かかる時間」のこと。工程間の滞留時間も含まれます。
発注リードタイム
製造業では、原材料の調達にかかる時間が「発注リードタイム」です。部品などを発注してから生産拠点に届くまでの時間を意味し、発注リードタイムが長いほど在庫を多く持つ必要性が高まります。
製造リードタイム(生産リードタイム)
「製造リードタイム」は、製品生産の着手から完了にかかる時間です。製造リードタイムが長くなるほど仕掛品は増え、納品までの期間も長くなります。
※仕掛品とは
生産に着手してから製品が完成するまでの途中段階にあるものを意味し、仕掛在庫とも言います。
出荷リードタイム
「出荷リードタイム」とは、出荷指示を出してから顧客に製品が届くまでの時間です。製品のピッキングや梱包、トラックへの積載、輸送などといった作業工程が、出荷リードタイムに含まれます。
適正在庫の求め方は?2つの計算方法
適正在庫の具体的な計算方法をご紹介します。
<方法1>「サイクル在庫」で算出
適正在庫=安全在庫+サイクル在庫
一つ目は、先述した安全在庫に「サイクル在庫」を足して適正在庫を算出する方法です。サイクル在庫とは、資材の発注から入庫までにかかる期間(発注リードタイム)の需要に対応するための在庫を指します。欠品を出さない最低限の在庫量(安全在庫)に、発注リードタイムの間の需要を加味したものを、適正在庫と捉える考え方です。
サイクル在庫は、以下のような計算方法で求められます。
<サイクル在庫の求め方>
1日当たりの平均出荷量×調達にかかる日数(発注リードタイム)
例えば1日に平均5個出荷し、発注リードタイムが3日間の場合のサイクル在庫は、以下のようになります。
5個×3日=15個
なお、安全在庫数の計算式は以下の通りです。
<安全在庫の求め方>
「安全係数(1.65)」×「使用量の標準偏差」× √(発注リードタイム+発注間隔)
安全係数:許容できる範囲の欠品リスクを数値化したもの(1.65は、欠品許容率5%にあたる)
使用量の標準偏差:出荷量の平均値
発注間隔:次回の発注までの日数
安全在庫やサイクル在庫は、このような計算式で基準値を求めることができますが、実際には市場の動向や製品ごとの特性など、ケースに応じて調整しながら適正在庫を求めることもポイントです。
<方法2>「一定期間の需要数」で算出
適正在庫=安全在庫+一定期間の需要数
一定期間における需要数を基に、適正在庫を把握しようとする考え方です。
以下で例を見てみましょう。
安全在庫:10
1日の需要数:5
この場合の10日間の適正在庫を求めるには、次のようになります。
10個+5個×10日=60個(適正在庫)
需要数は顧客に必要量を聞くほか、過去の受注状況や市場の動向から予測するなどといった方法もあるでしょう。
在庫状況をチェックするための3つの指標と計算方法
在庫量が適正かを判断するためには、適正在庫量と比較する以外にも、在庫の滞留期間や投資効率などの指標からチェックする方法があります。
ここからは、在庫状況をチェックするための指標とその計算方法をご紹介します。これらの指標の目標値を定め、適正在庫を保つためのKPI設定などに活用することもできるでしょう。
<方法1>在庫回転率で適正な在庫かチェックする
一つ目は、在庫が一定期間にどれだけ入れ替わったかを示す「回転率」で、在庫量をチェックする方法です。在庫回転率では、原材料を調達してから商品として売れるまでの早さを知ることができます。経営目線からすると、在庫回転率の数字が大きいほど在庫の滞留期間が短く、キャッシュフローの改善につながると言えるでしょう。
在庫回転率は、取引額または在庫の数量のどちらを使っても確認でき、それぞれ以下のような計算式になります。
<1年間の在庫回転率の計算方法>
【金額の場合】
在庫回転率=期間中の総売上原価÷期間中の平均在庫金額
【数量の場合】
在庫回転率=期間中の総出庫数÷期間中の平均在庫数
例えば取引額で計算する場合、期間中の総売上原価が1,500万、平均在庫金額200万なら次のような計算式になります。
1,500万÷200万=7.5回転(在庫回転率)
在庫回転率をチェックする際は、業界ごとの適正値を参考にするのも一つの方法でしょう。
<方法2>回転日数で適正な在庫かチェックする
一つ目の方法と似た考え方で、在庫回転日数をベースにしてチェックする方法もあります。在庫回転日数とは、在庫が入れ替わるのにどのくらいの期間がかかっているのかをチェックするための指標です。
<在庫回転日数の計算方法>
在庫回転日数=日数÷在庫回転率
1年間の在庫回転率を8として計算すると、以下のような計算式になります。
365日÷8回転=45.625日(在庫回転日数)
在庫回転日数は一概に短いほうがよいとは言えず、生産するものや生産方式によって適正値は異なります。製品リードタイムと比較して、在庫回転期間が適正かどうかをチェックするのも方法の一つです。
<方法3>交叉比率(交差比率)で適正な在庫かチェックする
交叉比率とは、投資効率のよさをチェックする指標です。在庫回転率と粗利益率を掛け合わせて数値を算出します。
<交叉比率の計算方法>
交叉比率=在庫回転率×粗利益率
例えば、在庫回転率を8、粗利益率を25%とすると以下のような計算式になります。
8回転×25%=200%(交叉比率)
交叉比率の数値が高いほど、その製品は儲けを生み出していると言えます。反対に、数値が低すぎる場合は在庫量の見直しも含めて検討するとよいでしょう。
適正在庫を保つためのポイント
過剰在庫などの問題が発生している場合、どのような改善策があるでしょうか。日々変化する状況のなかで、適正在庫を維持するためのポイントをご紹介します。
発注の仕組みを見直す
どのような発注方式をとるかによって、適正在庫の実現しやすさは変わってきます。場合によっては発注方式の見直しを検討したほうがよいケースもあるでしょう。発注方式を大きく分類する際の視点として、次の2つがあります。
- 発注のタイミング:定期/不定期
- 発注量:定量/不定量
例えば定期・定量発注なら、同じ間隔で決められた数量を発注することになります。どのような発注方式がよいか、品目の特性や手配にかかる工数、顧客との関係性なども加味して考えましょう。必要に応じて複数の方式を組み合わせ、社内全体にとって最適な方法を考えます。また、適切な発注点の管理や、発注リードタイムを守るための工夫も必要でしょう。
製造リードタイムを見直す
製造リードタイムが長くなるほど、欠品が起きた際に顧客を待たせることになります。急な受注量の増加などの変化に対応しにくく、機会損失も考えられるでしょう。このような欠品リスクを下げるために、在庫量を増やしておくといった悪循環も起こりかねません。
欠品リスクを抑えつつ、管理対象の在庫を減らすには、製造リードタイムの見直しが効果的です。製造リードタイムを短縮するためには、ボトルネックとなっている工程のほか、不良品発生率なども見直し、改善点を洗い出してみましょう。
需要予測の方法を見直す
適正在庫の維持には、需要予測の精度も関わってきます。ベテラン担当者の経験や勘に頼った需要予測で、在庫数を決めているケースも少なくないのではないでしょうか。このような方法は、業務の属人化が進むだけでなく、市場の変化が激しい時代において精度を保つことが難しいでしょう。
改善策として、システムを活用して需要予測を行うことも方法の一つです。需要予測の精度を高めるとともに、予測と実際の受注状況に差があった場合に迅速にカバーできるような仕組みづくりもポイントとなります。
生産計画の運用方法を見直す
生産計画も在庫量に影響する要因の一つです。生産計画の立案後、生産が予定とずれることで、余剰や欠品が生じる可能性もあります。このような事態を防ぐため、生産計画の修正頻度が適切かどうかなど、運用方法を見直しましょう。
社内の認識を統一する
これまで見てきたように適正在庫の維持には、社内のさまざまな部門が関係します。部門で分けて考えずに、企業全体にとっての適正在庫の目標値を設定し、認識を統一しておくことが必要です。
エクセルで在庫管理表を作る場合の課題点
適正在庫を維持するために、エクセルの在庫管理表を利用しているケースもあるでしょう。しかし、エクセルで在庫管理表を作成する場合には次のような課題点があります。
<エクセルを使った在庫管理表の課題>
- リアルタイムに更新できない
- 在庫量や在庫推移がわかりにくい
- 複数人による管理が難しい
- エクセルスキルの個人差が業務に影響しやすい
エクセルの在庫管理表を使う場合、入力までにタイムラグが生じてしまいます。また、エクセルで作成した数字の一覧表は見にくく、在庫の推移なども把握しにくいでしょう。
複数人で編集作業などを行うと、2重入力といったミスが発生する可能性も考えられます。エクセルの関数を使って効率的に運用する方法もありますが、エクセルのスキルには個人差があるでしょう。このような状況は、社内の属人化を進める要因にもなります。
在庫管理の効率化は生産管理システムがおすすめ
在庫管理を効率化しながら適正在庫を維持するには、在庫管理を含む生産工程全体を一元的に管理できる、生産管理システムの活用がおすすめです。ここからは、生産管理システムについてご紹介します。
生産管理システムとは
生産管理システムとは、製造業のあらゆる業務を一括管理できるシステムです。受注管理や生産計画、購買管理、在庫管理など、生産にまつわるデータ管理を一つのプラットフォーム上で行えるため、部門をまたいだ情報共有もリアルタイムに行えることがメリットと言えます。
生産管理システム「ProAxis」の導入メリット
生産管理システム「ProAxis(プロアクシス)」は、製造業における生産管理に最適なソリューションです。製品のメリットや特徴をご紹介します。
一つのシステムでさまざまな生産方式に対応
「ProAxis」は、製造業の基幹業務にまつわる機能を網羅した統合型システムです。「ProAxis」の特徴として「繰返し生産」「個別受注」の両方に対応できる点が挙げられます。製品によって生産方式が異なる場合も、一つのシステムで完結できる点がメリットです。
現場の使いやすさを考えた操作性。適正在庫の維持にも貢献
マスタはシンプルに構成し、設計変更のほか、日々の追加や修正を簡単に行えます。資材や仕掛品、完成した製品の在庫がリアルタイムで更新されるため、常に最新の状況を見て意思決定が行なえるでしょう。
日程計算では、余剰在庫の発生を低減させるロジックを採用。リソース配分の見直しや、コスト削減に貢献します。
お客様の強みを生かした柔軟なシステム構築を実現
カスタマイズによる柔軟なシステム構築も「ProAxis」のメリットです。30年以上にわたってさまざまな業種のシステム導入を支援してきた経験を活かし、お客様に合わせた最適なシステムをご提案します。既存システムとの入れ替えのほか、基幹業プラットフォーム全体のご提案もお任せください!
「量産」にも「個別受注」にも対応できる生産管理・債権債務管理システム「ProAxis」
適正在庫を見直して在庫管理を最適化しよう
適正在庫とは、資材の発注や製造、販売など、在庫管理に関係する部門全体で見たときの最適な在庫量を意味します。製品の特性や生産方式などによっても適正範囲の考え方は異なるでしょう。適正在庫を維持するには、随時、状況に合わせて適正在庫の値を見直すことも大切です。今回の記事でご紹介したポイントも参考に、自社にとっての適正在庫を見極め、在庫管理を最適化しましょう。