日本の製造業が抱える課題。DX推進など課題解決のための方法を解説
日本の製造業は、人材不足をはじめとするさまざまな課題に直面しています。課題を解決し、ICT化・DX化を推進したい企業も多いでしょう。今回の記事では、日本の製造業が抱える課題や製造業の課題解決方法を解説します。ICT化・DX化の実現によるメリットや、ICT化・DX化の進め方・ポイントも紹介していますので、参考にしてください。
日本の製造業の現状
製造業の課題について解説する前に、まずは日本の製造業の現状について、経済産業省の「2023年版ものづくり白書」をもとに紹介します。
製造業は2021年時点で日本のGDPの約2割を占めており、日本経済を支える中心的な産業としての役割を果たしているといえます。一方で、企業の景況感を示す指標である「業況判断DI(日銀短観調査項目の一つ)」について、「大企業製造業」では2022年第1四半期から5四半期連続で悪化していることが示されました。「中小企業製造業」の業況判断DIは、2022年第2四半期以降緩やかに改善していましたが、2023年第1四半期以降は悪化しています。
こうした状況の背景には、「新型コロナウイルス感染症による影響」や「世界的な半導体不足」「原材料価格の高騰」「国際競争力の低下」などがあると考えられるでしょう。
日本の製造業が抱える4つの課題
日本の製造業では、どのようなことが課題となっているのでしょうか。日本の製造業が抱える4つの課題を紹介します。
人材不足が顕著である
日本の製造業の課題としてまず挙げられるのが、人材不足が顕著であるという点です。
経済産業省の「2023年版ものづくり白書」によると、製造業の就業者数は2022年時点で1,044万人と2002年時点よりも約160万人減少しました。全産業の就業者数が微増しているのに対して、製造業の就業者数は減少傾向にあることがうかがえます。全産業に対する製造業従事者の割合を見ると、2002年時点では約2割(19%)を占めていましたが、2022年時点では15.5%と、3.5ポイントの減少となっています。
製造業では特に若手の人材不足が顕著です。経済産業省の同資料によると、製造業の若年就業者数は、2002年から減少傾向が続き、2022年時点での製造業の若年就業者数は255万人でした。全世代に占める若年就業者の割合については2022年時点で25%弱と、約4人に1人にとどまっています。
技術継承が進んでいない
「若手社員が少ない」ことと関連性が高いのが、「技術継承が進んでいない」という課題です。本来、技術は豊富な知識・経験を有するベテラン社員から、若手社員へと継承していくべきものといえます。しかしながら、技術を伝承される側の若手社員が不足しているため、思うように技術継承が進んでいないというのが、製造業の現状です。
また企業によっては、知識・経験豊富なベテラン社員が他社に転職してしまったり、技術継承をする際に必要となる業務マニュアルや作業手順書などが未整備だったりするケースもあるでしょう。そうした状況も、製造業における技術継承の課題をより深刻なものにしていると考えられます。
人材に関連した費用や設備維持費が高騰している
人材に関連した費用や設備維持費の高騰も、日本の製造業の課題となっています。
人材の流動化が進む中で人手を確保するには、「採用強化」や「給与などの処遇改善」「福利厚生の充実」などにより、求職者に自社の魅力をアピールすることが不可欠です。しかしながら、これらの取り組みを実施するにあたり、資源投入が必要となります。
実際、製造業の企業が、「設備投資の増強」に加え、「採用・人材育成の強化」「賃金など処遇の改善」「人事諸制度や福利厚生の整備・充実」にも資源を投入しているということを示すデータもあります。
(参考:経済産業省『2023年版ものづくり白書|第2章 就業動向と人材確保・育成|第3節 ものづくり企業におけるデジタル化に対応した人材の確保・育成』)
設備維持費については、「レガシーシステム」や「2025年の崖」が関係しています。「レガシーシステム」とは、「老朽化、肥大化・複雑化、ブラックボックス化したシステム」のことです。また、「2025年の崖」とは、既存システム(レガシーシステム)のブラックボックス状態を解消しつつ、データ活用することができなかった場合、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性があるという課題のことをいいます。
「2025年の崖」を回避するためにはレガシーシステムから脱却しなければなりませんが、システムの保守・更新などには多額の費用が必要です。レガシーシステムを抱えている製造業の企業は少なくないため、設備維持費が高騰しているとされています。
ICT化・DX化が進んでいない
「人材不足」や「人材に関連した費用・設備維持費の高騰」により、「ヒト」「カネ」というリソースの確保が困難になっていることが一因で、製造業ではICT化・DX化があまり進んでいません。「ICT化」とは情報通信技術を用いてコミュニケーションを円滑化し、サービス向上などにつなげることを、「DX化」とはデジタルやIT技術、蓄積されたデータを活用して、既存のビジネスやプロセスに革新的な変化をもたらすことを指します。
ICT化・DX化できていない状況では、「業務効率化・生産性向上」や「技術継承の実現」などは困難です。また、ICT化・DX化が進まないため、「新商品・サービスの企画開発に時間がかかる」「単純作業を自動化できない」といった課題が生じている企業も少なくないでしょう。
【関連記事】DXとは?推進するメリット・事例・進め方をわかりやすく解説!
製造業の課題を解決するための4つの方法
上述の課題解決に向け、製造業各社はどのようなことに取り組む必要があるのでしょうか。製造業の課題を解決するための方法としては、以下の4つがあります。
- 採用強化と定着率向上に取り組む
- ナレッジマネジメントを構築する
- 業務を見直し、業務効率を改善する
- リソースを投入し、ICT化・DX化を推進する
それぞれについて、見ていきましょう。
採用強化と定着率向上に取り組む
製造業の課題の一つである「人材不足」を解決するためには、「採用強化」と「定着率向上」に取り組むことが重要です。
「採用強化」については、「母集団形成の方法や採用ブランディングなどを見直す」「日本人だけでなく、外国人技術者も受け入れるようにする」などの方法があります。「定着率向上」のためには、「働きやすい職場作り(業務効率化による長時間労働の是正、有給取得しやすい体制の構築)」や「研修の充実」「キャリアパスの明示やキャリアアップ機会の提供」などが効果的です。
また、一部の業務を派遣社員に担ってもらったり、外部の企業に業務委託したりすることも、現場の人材不足解消に有効な方法といえるでしょう。
しかし、人材不足は全産業共通の課題であり、より好条件の企業や産業に人材が集中する状況は避けられません。また、生産年齢人口は今後も減少の一途をたどるとされており、人手に頼った施策には限界もあるでしょう。そこで重要となるのは、人材採用の強化などの施策と、この後に紹介する施策を両輪で回し、限られた資源を最大限に活用することです。
ナレッジマネジメントを構築する
ナレッジマネジメントとは、従業員個々人が有する知識やノウハウといった「ナレッジ」を組織全体で共有・活用することです。ナレッジマネジメントの構築により、業務の属人化を防ぐことができ、技術継承がしやすくなります。
具体的には、「業務マニュアルや作業手順書などの作成による、ベテラン従業員の有するナレッジの可視化」「ナレッジ共有ツール・システムの導入と蓄積されたナレッジの活用」などを行う必要があります。近年では、動画やAR(Augmented Reality・拡張現実)、VR(Virtual Reality・仮想現実)などをマニュアルに活用できるツールも登場しており、熟練技術者の暗黙知化された作業も、共有しやすくなっています。
ナレッジマネジメントを推進することで、業務の標準化も可能です。これにより、品質の均一化や生産性向上も期待できるでしょう。
業務を見直し、業務効率を改善する
製造業の課題を解決するためには、業務を洗い出した上で、ムダな業務・簡略化できそうな業務がないかを確認し、業務の見直しをすることも不可欠です。それにより業務効率が改善され、少ないリソースでも生産性向上につながるでしょう。
具体的には、製造現場で生じやすいとされている「7つのムダ」を解消していくことが重要です。
- 加工:不要な作業・工程を実施することによるムダ
- 在庫:在庫過多によって生じるムダ
- 不良・手直し:不良品によって生じるムダ(原材料費、作業に要した光熱費・人件費など)や作業の手直しにかかるリソースのムダ
- 手待ち:人員分配や作業手順に課題があることによって生じる「手待ち時間」というムダ
- 造りすぎ:不要なものを余分に作ってしまうことによるムダ
- 動作:作業をする際に不要な動作(席を立つ、別の作業場に移動するなど)が発生・増加することによるムダ
- 運搬:物を移動させる際に不要な動作(物の移動、積み上げなど)が生じることによるムダ
なお、「業務効率化」について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
【関連記事】業務効率化を図る具体的アイデア。ツールの種類や生産性アップの工夫
リソースを投入し、ICT化・DX化を推進する
企業にとっての経営資源である「ヒト(人材)」「モノ(機器、システムなど)」「カネ(資金)」を投入し、ICT化・DX化を推進することも重要です。
ICT化・DX化を実現すれば、「スマートファクトリー」への転換が図れます。「スマートファクトリー」とは、工場内の基幹システムや製造実行システム、生産設備などがネットワーク接続され、工場経営の指標となる各種データの管理・運用を効率的に行える工場のことです。スマートファクトリー化により、生産性向上や新たな付加価値の創出が期待できるといわれています。
また、ICT化・DX化が進めば、これまで人手が必要だった作業をAIやロボットによって自動化することもできます。その結果、従業員の負担を軽減し定着率を高めたり、より生産性を高めるための戦略立案などにリソースを配分したりといったことにもつながるでしょう。
ICT化・DX化の実現によるメリット
ICT化・DX化の実現によるメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
- 人力で行っていた単純作業の一部または全部をRPA化(ロボットによる業務自動化)することで、業務効率化や生産性向上が期待できる
- ベテラン従業員のスキル・ノウハウをデータとして可視化・活用でき、技術継承が実現しやすくなる
- AIによるデータ分析結果の活用により、新商品・サービスの企画開発にかける時間を短縮できる
- AIによるデータ分析結果に基づき、在庫の適正管理や機械・設備の故障時期予測ができるようになり、生産体制の安定化や設備管理の最適化が実現可能になる など
こういったメリットが期待できるため、ICT化・IT化の実現は企業の中長期的な成長につながるでしょう。
製造業におけるICT化・DX化の進め方とポイント
実際、どのようにICT化・DX化を進めていけばよいのでしょうか。製造業におけるICT化・DX化の進め方とポイントを、キッセイコムテックの中尾が解説します。
【関連記事】企業がDX推進を成功させるには。課題や推進の5ステップ、ポイントを押さえて紹介!
ICT化・DX化の進め方
ICT化・DX化は、「@目的の明確化」「A推進計画の策定」「B施策の優先順位決め」「C施策の実行」「D定期的なPDCAサイクルの運用」の順に進めます。
「@目的の明確化」については、自社の課題を分析した上で、ICT化・DX化により何を実現したいかを考えます。目的が定まったら、「A推進計画の策定」により、施策の担当部署や実施期限、予算などを明確化しましょう。業務への影響度や難易度を検討した上で「B施策の優先順位決め」を行い、実際に施策を進めていきます。「C施策の実施」に際しては、特定の業務を先行してICT化・DX化する、特定の部門・部署のみを対象に実施した後に全社展開するなど、段階的に実施していくとよいでしょう。
施策を実行していく中で、「推進計画通りに進まない」「予定外の作業を実施しなくてはいけなくなった」といった課題が発生することも考えられます。こうした課題に適切・迅速に対処できるよう、「D定期的なPDACサイクルの運用」をすることも重要です。
ICT化・DX化を進める際のポイント
ICT化・DX化の効果を最大化するためには、必要な施策を組織全体で実施していくことが重要です。経営層はもちろん、社員一人ひとりがICT化・DX化への理解を深め、一丸となって取り組んでいきましょう。そのためには、社内全体へ積極的に情報を共有し、社内文化を醸成していくことが必要となります。
また、データに基づいて経営判断をする「データ利活用」は、ICT化・DX化で目指すべきゴールの一つです。しかし、企業によっては、「そもそもデータ収集をできていない」「データは収集しているものの、分析・活用できていない」といったケースも多いでしょう。そうした場合、まずは「自社がどの程度データを利活用できているか」の把握から始めることが重要です。データの利活用に際しては、顧客データや従業員の個人情報、未発売の商品・サービスの企画書といった機密情報が漏えいしないよう、細心の注意を払う必要があります。機密情報の漏えい防止のため、セキュリティーに強いシステムを選定・導入しましょう。
なお、ICT化・DX化を推進できる人材が社内にいない/不足している状況下で推進計画を迅速に進めたい場合には、専門知識・スキルを有する外部の専門家・専門会社などと連携することをおすすめします。
自社に合ったシステムを導入し、製造業の課題を解決しよう
製造業が抱える課題を解決するためには、「採用強化・定着率向上」「ナレッジマネジメントの構築」「業務効率化」「ICT化・DX化の推進」を図っていくことが必要です。
ICT化・DX化の実現により、業務効率化や技術継承の実現、生産体制の安定化などのメリットが期待できます。ICT化・DX化は、「@目的の明確化」「A推進計画の策定」「B施策の優先順位決め」「C施策の実行」「D定期的なPDCAサイクルの運用」の順に進めることが重要です。情報漏えい防止のためにセキュリティーの高いシステムの中から自社に合ったものを選定・導入し、自社の課題解決につなげましょう。
製造業の課題解決につながる生産管理システム「ProAixs」
製造業の課題解決につながる生産管理システムとしておすすめしたいのが、キッセイコムテックが提供している製造業向けの生産管理システム「ProAixs」です。
「ProAixs」は、「適応性」「操作性」「柔軟性」を特徴としたパッケージとなっています。「適応性」については、受注生産または見込生産型の「量産」と、一品物を製造する「個別受注生産」の両方に対応。シンプルなマスタ構成により、現場が使いやすい「操作性」を実現しています。加えて、カスタマイズ(アドオン)の「柔軟性」により、標準機能では対応していない機能要件も高いレベルで実現可能です。
標準機能として、「受注管理」や「生産管理」「製造管理」「在庫管理」などの各種機能が備わっています。これらの機能を活用することで、「在庫の見える化による適正在庫の確保」や「進捗状況の見える化による納期の順守」などを実現できます。
「課題の掘り起こし」から「分析」「提案」まで対応しており、本稼働後もお客様ごとに専用の保守問合せ窓口をご用意いたしますので、安心してご利用いただけます。自社の抱える課題をシステム活用により解決したい方は、「ProAxis」の導入・活用をぜひご検討ください。
「量産」にも「個別受注」にも対応できる生産管理・債権債務管理システム「ProAxis」